進化生態学研究室の西野大翔です。 本日のむしくさセミナーの発表タイトルと要旨になります。 【発表者】 進化生態学研究室M2 西野大翔 チョウセンカマキリにおける性的共食いに伴う交尾時間の延長と配偶者防衛の強化 【要旨】 性的共食いとは、交尾の際に雌が同種の雄を捕食する行動であり、クモやカマキリといった一部の節足動物でよく見られる。性的共食いは雌にとっては摂食量を増やし、より栄養を得ることができるという点で適応的であるが、雄は以後の交尾の機会を失うという大きなコストを被る。よって、雄はこのようなコストを避ける、あるいは補償するような行動を進化させると予測される。また、交尾後に雄が雌に付き添い、他の雄との交尾を防ごうとする配偶者防衛行動は、雌が多回交尾を行う種で適応的である。性的共食いを受けたカマキリの雄は、交尾時間を延長する事が知られており、これがライバル雄に対する配偶者防衛として機能する可能性がある。しかし、性的共食いされた雄の行動の適応的意義についての研究はほとんどない。 そこで、野外集団において性的共食いが起こることと、雌が多回交尾を行うことが知られているチョウセンカマキリを用いて、「交尾による雌との接触自体がライバル雄に対する配偶者防衛として機能する」、「共食いによる交尾時間の延長が配偶者防衛機能を強化する」という仮説を立て、行動実験により検証した。結果、交尾中の雄はライバル雄に雌を奪われることがあったが、性的共食いを受けない通常の交尾で70%の雄が交尾を完了し、交尾後の精包付着期間中も雌は再交尾しなかったため、交尾自体が配偶者防衛として機能していることが示された。一方、交尾時間は性的共食いにより延長するが、雌の再交尾までの時間は共食いされなかった雄と差がなかったため、配偶者防衛の能力を高めるとは言えなかった。これは、性的共食いを受けていない雄は交尾後も雌の近くに留まり、他の雄を牽制したり交尾を積極的に妨害できるのに対し、性的共食いを受けた雄はそれができないことが原因として考えられた。よって、性的共食いを受けた雄は交尾時間を延長することで、共食いによって将来の繁殖機会を失うコストではなく、共食いされていない雄が行う配偶者防衛ができなくなるコストを補償している可能性がある。 本年度はこの行動が野外でも存在するかを検証するため、交尾を完了した雄が雌と十分に距離を取れるようにした実験を行う。 #
by mushikusa
| 2023-05-17 13:26
本日むしくさセミナーで発表します。よろしくお願いいたします。
【タイトル】 火入れ草原における希少植物の高い多様性
【発表者】 生物多様性研究室 M1 朝田愛理
【要旨】 国内外の半自然草原は、火入れ、放牧、草刈りなど人に管理されることで維持されてきた。しかし、放牧や草刈りは重労働であるため、近年は管理者の高齢化や農村の人口減少とも相まって、管理が放棄される傾向にある。一方で火入れによる草原管理は、作業を適切に行えば、放牧や草刈りに比べ、少ない頻度や労力で、広範囲を管理できると言われている。つまり、比較的広範囲の草原を簡易に維持するためには、火入れは効果的かつ効率的であると考えられる。ただし、火入れのみの管理では、他の管理を組み合わせた場合に比べ植生高が高くなり、背の低い植物の多様性、特に現在日本各地で希少になりつつある在来草原性植物種(絶滅危惧種)の多様性が低くなることが報告されている。このような状況下で、火入れのみの管理でも、植物の多様性が高い環境があるのか、またその環境はどのように維持されているのかを明らかにすることは喫緊の課題である。森林が極相となる地域でも、岩角地や火山台地などの特異な土壌環境がみられる場所では、自然草原が成立しやすいことが知られている。そこで本研究では、火入れのみの管理でも土壌が浅く岩石の多い環境では、絶滅危惧種を含めた草原性植物の多様性が維持されうるという仮説を立てた。年1回の火入れのみで管理される梨ケ原の半自然草原を対象に、火山活動で形成される4つの基岩タイプの違いが、半自然草原上の植物の多様性維持にどのように影響しているかを明らかにすることを目的とした。 各基岩タイプの草原に1㎡プロットを10~15設け、6,9月に植生調査、8,9月に土壌環境要因の測定を行った。その結果、在来草原性植物種数・絶滅危惧種の多様性ともに新溶岩草原で高かった。また、新溶岩草原では硬く浅い土壌がみられ、植生高が低く維持されていた。基岩タイプごとに種組成は異なっており、新溶岩草原の指標種は絶滅危惧度が他の基岩タイプのものより高かった。土壌栄養塩は植物の多様性に影響を与えていなかったが、梨ケ原全体が貧栄養である可能性が示唆された。 今年度は新たに調査地を設定し、火入れ草原に加え、岩角地の自然草原でも調査を行う。梨ケ原で得られた結果と比較し、絶滅危惧種の多様性が高い環境にみられる共通性を明らかにすることを目的とする。 #
by mushikusa
| 2023-05-17 10:58
【タイトル】
チョウセンカマキリにおける肥満度と交尾経験が性的共食いに及ぼす影響の解明と野外での性的共食い率の推定 【発表者】 進化生態学研究室 M2 黒田一樹 【要旨】 カマキリやクモでは,交尾時に雌が雄を捕食する性的共食いが知られている.カマキリでは,摂食量が多く肥満度が高い雌ほど雄を誘引しやすく,共食いする傾向が低いことが知られているが,極度に肥満度の低い雌は雄を誘引した上で共食いするという報告もある.よって,雌の共食い頻度と摂食量との関係を把握することは,性的共食いの進化と雄による対抗適応の仕組みを理解する上で重要である.しかし,摂食量と肥満度が性的共食い率に及ぼす影響を定量的に調べた研究は少ない.また,野外での性的共食い率を推定した研究は少なく,野外での肥満度の変動との関連はわかっていない.そこで昨年度は,給餌量と給餌間隔が肥満度と性的共食い率に及ぼす影響を実験的に調べると共に,野外での肥満度の変化を調査した. まず,給餌量の異なる3段階の処理と,給餌量の多い2段階に給餌間隔の異なる2つの処理を設定した.未交尾雌を羽化から4週間後までそれぞれの給餌処理で飼育し,週3回の給餌直前に体重を測定した.それぞれの体重を体サイズ(前胸背板長)で割った値を肥満度として,給餌量と給餌間隔が肥満度に及ぼす影響を調べた.結果,給餌量が多くなると肥満度は有意に高くなったが,給餌間隔は肥満度に影響を及ぼさなかった.次に,得られた肥満度の異なる未交尾雌と雄を用いて,マウント行動と交尾行動,性的共食いの有無を観察し,肥満度と共食い率の関係の統計モデリングを試みた.結果,肥満度はマウント率や交尾率,共食い率に影響はなく,給餌量や給餌間隔も影響を及ぼさなかった.さらに,野外集団における肥満度から性的共食い率を推定することを目的として,8月中旬から10月末まで,成虫の肥満度を毎週測定した.結果,肥満度が最も高まった9月中旬以降では,飼育下で最も肥満度の高かった処理よりも肥満度が高いことが示された. 今年度は,給餌処理に加え交尾経験を操作した処理も加えて交尾実験を行い,メスの肥満度や交尾経験が性的共食い率に及ぼす影響を解明する予定である.
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| 2023-05-09 15:47
大変遅くなり申し訳ありません! 【タイトル】草地再生過程における送粉群集および繁殖成功の変化およびそのメカニズム 【発表者】 生物多様性研究室D1 平山楽 【要旨】 人為的に管理維持されてきた半自然草原は豊富な生物多様性を有している。近年、耕作放棄や植林などによって半自然草原の劣化や減少、それに伴う草原性生物の多様性減少が問題となっている。この問題に対し、管理を再導入することで半自然草原および草原性植物の多様性再生が試みられてきた。しかし、数十年以上管理を続けても元の草原ほどには多様性が再生しないことが指摘されている。 本研究は、群集における植物と送粉者の相互作用網である送粉ネットワークNWに着目した。管理再導入後の再生草地では、植物および送粉者の多様性が低く、送粉のジェネラリスト化を促進させうる。ジェネラリスト度が高い送粉NWでは、植物種間の繁殖干渉や低い送粉効率を招くため、植物の繁殖成功が低いと考えられる。
本研究では、「森林化による草原性虫媒植物種の多様性減少の影響で送粉NWがジェネラリスト化した状態が長く維持され、植物の繁殖成功が低く抑えられている」ことが再生草地における草原性植物の多様性回復が停滞する要因のつにあると仮説を立て、これを検証した。今後の研究としては、花形質に着目して送粉者の分布や送粉NWのジェネラリスト化の要因を検証することを予定している。 #
by mushikusa
| 2023-04-26 10:44
| むしくさセミナー
源研究室の松尾です。
今週水曜日に、むしくさセミナーにて発表させていただきます。 よろしくお願いします。 【タイトル】 環境DNA分析手法を用いたタイ肝吸虫の検出系の確立および野外適用 【発表者】 源研究室 M1 松尾莉子 【要旨】 タイ肝吸虫の寄生によって感染がおこるタイ肝吸虫症は、東南アジア諸国の風土病で、感染によって胆管癌のリスクが高まるため、大きな健康問題となっている。しかし、タイ肝吸虫のライフサイクルは複雑であるため、従来の調査方法ではタイ肝吸虫の生息場所を迅速にモニタリングすることは困難である。環境中の水から宿主や寄生虫のDNAを検出する環境DNA分析を用いれば、タイ肝吸虫の生息域や感染動態を高い精度で把握することが可能だが、これまでの手法では環境水からの検出率が低いことが問題としてあげられる。 本研究では、タイ肝吸虫の環境DNAの高感度な検出方法の開発を目指した。プライマープローブを用いたリアルタイムPCRにおける検出感度を増加させるため、組織DNAを用いて複数のプライマープローブを混ぜた検出系(ミックスアッセイ)を設計し、シングルプライマー/プローブによる検出系(シングルアッセイ)との感度を比較した。また、タイのサコンナコンで調査を行い、ミックスアッセイを用いてタイ肝吸虫の環境DNAを検出するためのフィールド調査を実施した。これらの結果、組織DNA、野外環境DNAともにミックスアッセイで感度が向上することが示された。今後の研究としては、実験的に感染させた貝や魚から放出される環境DNAの実験データの分析、ラオスのサワンナケートでの異なる季節(乾季と雨季)でのフィールド調査を予定している。 #
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| 2023-04-25 09:23
| むしくさセミナー
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